日本の伝統衣装である「着物」。成人式や結婚式など、特別な日に着るものというイメージが強いかもしれませんが、実はもっと気軽に、日常のおしゃれとして楽しむこともできる、とても奥深い魅力を持った衣服なんです。でも、「種類がたくさんあってわからない」「着付けが難しそう」「小物が多すぎる…」なんて、ハードルを高く感じてしまう方も多いのではないでしょうか。
この記事では、そんな着物初心者さんが抱える疑問や不安を解消し、「着物を着てみたい!」という気持ちを後押しできるような、お役立ち情報をぎゅっと詰め込みました。特定の商品紹介や宣伝は一切ありません。純粋に着物の世界を楽しむための、基礎知識からお手入れ方法、知っているとちょっと自慢できる豆知識まで、幅広くご紹介していきます。この記事を読めば、あなたもきっと着物の魅力にどっぷりハマってしまうはず。さあ、一緒に着物の世界の扉を開けてみましょう!
そもそも着物ってどんなもの?基本を知ろう
まずは基本の「き」。着物がどのような歴史をたどり、どんな構造をしているのかを知ることで、より深く着物を理解することができます。なんとなく知っているようで、実はよく知らない着物の基礎知識を、ここでおさらいしておきましょう。
着物の歴史をざっくり解説
私たちが現在「着物」と呼んでいる衣服の原型は、実は平安時代にまで遡ります。当時の貴族たちが着ていた「小袖(こそで)」が、そのルーツと言われています。小袖は、もともと十二単などの装束の下着として着用されていましたが、時代が進むにつれて表着へと変化していきました。
室町時代から安土桃山時代にかけて、小袖は庶民の間にも広まり、ファッションとして楽しまれるようになります。この頃から、さまざまな染色技術や文様が生まれ、着物はより華やかに進化していきました。江戸時代になると、世の中が安定し、町人文化が花開きます。歌舞伎役者をお手本にしたファッションが流行するなど、着物は庶民の生活に深く根付き、多様な発展を遂げました。今に伝わる着物の種類の多くは、この江戸時代に確立されたものです。
明治時代に入り、西洋文化が流入すると、洋服が普及し始めます。しかし、着物はハレの日の衣装として、また日本の伝統文化として、その価値を失うことはありませんでした。現代においても、着物は私たちの暮らしの中で、人生の節目を彩り、日本の美意識を伝える大切な役割を担っています。時代と共に形を変えながらも、脈々と受け継がれてきた着物の歴史に思いを馳せると、袖を通すときの気持ちも、また少し変わってくるかもしれませんね。
着物の構造と各部の名称
一見複雑そうに見える着物ですが、実はとてもシンプルな平面構成でできています。一枚の布を直線的に裁断し、縫い合わせることで作られているため、体型を問わずに着ることができ、畳んでしまえばコンパクトになるという、非常に合理的な衣服なのです。ここでは、着物の主要な部分の名称をご紹介します。覚えておくと、着付けを習うときや、お店の人と話すときにもスムーズですよ。
| 名称 | 読み方 | 説明 |
| 袖 | そで | 腕を通す部分。袂(たもと)や袖丈(そでたけ)など、さらに細かい部位に分かれます。 |
| 身頃 | みごろ | 胴体を覆う主要な部分。前身頃と後身頃があります。 |
| 衿 | えり | 首周りの部分。顔に一番近いので、着こなしの印象を大きく左右します。 |
| 衽 | おくみ | 前身頃に縫い付けられている、衿から裾までの半幅の布。着物を合わせたときに見える部分です。 |
| 裾 | すそ | 着物の最も下の部分。 |
| 裄 | ゆき | 背中の中心から袖の端までの長さ。裄の長さが合っているかは、着姿の美しさを決める重要なポイントです。 |
| 身丈 | みたけ | 肩から裾までの長さ。女性の着物は、着付けの際に「おはしょり」を作るため、身長より長く作られています。 |
着物と浴衣、何が違うの?
夏になると着る機会が増える「浴衣」。着物とよく似ていますが、実は明確な違いがあります。一番大きな違いは、浴衣がもともと湯上がりに着る部屋着、寝間着であったのに対し、着物は外出着であるという点です。もちろん、今では浴衣も夏のおしゃれな外出着として定着していますが、そのルーツからくる違いがいくつかあります。
まず、着付けです。着物を着るときは、肌着の上に長襦袢(ながじゅばん)を着て、その上に着物を重ねます。一方、浴衣は長襦袢を着ずに、浴衣用の肌着の上、あるいは直接素肌に着るのが基本です。そのため、着付けも浴衣の方が手軽です。
次に、素材も異なります。着物は絹(正絹)が最も格式高いとされていますが、その他にも木綿、麻、ウール、ポリエステルなど様々です。対して浴衣は、汗を吸いやすく、風通しの良い木綿や、近年では機能的なポリエステル素材のものが主流です。
そして、履物も違います。着物には基本的に草履(ぞうり)を合わせますが、浴衣には素足で下駄(げた)を履くのが一般的です。TPOをわきまえるという意味でも、この違いはしっかり覚えておきたいですね。例えば、友人の結婚式に着物で出席するのは素敵ですが、浴衣で出席するのはマナー違反になってしまいます。
着物の種類とTPOをマスターしよう
着物には、洋服のフォーマルドレスやカジュアルな普段着と同じように「格」があり、着ていく場所や目的に合わせて種類を選ぶのがマナーとされています。これを「TPO(Time, Place, Occasion)」と言います。ここでは、代表的な着物の種類を「格」ごとに分け、どのような場面で着るのがふさわしいのかを解説していきます。これを覚えれば、あなたも着物上級者の仲間入り!
女性の着物:格で見る種類分け
女性の着物は種類が豊富で、TPOに合わせて選ぶ楽しみがあります。大きく分けると、最も格の高い「第一礼装」、それに次ぐ「準礼装」、そして普段のおしゃれ着である「街着」の3つに分類されます。それぞれの特徴と着用シーンを見ていきましょう。
第一礼装(最も格が高い着物)
第一礼装は、冠婚葬祭などの最もフォーマルな場面で着用される着物です。染め抜きの日向紋(ひなたもん)を五つ入れた「五つ紋」が正式な形です。
- 黒留袖(くろとめそで):既婚女性が着用する最も格の高い礼装です。黒地の着物で、裾にだけ華やかな模様(裾模様)が入っているのが特徴。主に、結婚式で新郎新婦の母親や仲人夫人、親族の既婚女性が着用します。
- 本振袖(ほんふりそで):未婚女性が着用する最も格の高い礼装です。袖丈が長く(約114cm前後)、全体に華やかな模様が描かれているのが特徴。成人式や、結婚式で花嫁衣裳として着用されるほか、ゲストとして招かれた未婚女性が着ることもあります。
- 色留袖(いろとめそで):地色が黒以外の留袖で、未婚・既婚を問わずに着用できます。五つ紋を入れると黒留袖と同格の第一礼装となり、結婚式で新郎新婦の親族などが着用します。三つ紋や一つ紋にすると準礼装となり、祝賀会やパーティーなど、より幅広いシーンで着ることができます。
準礼装(第一礼装に次ぐ格)
第一礼装ほど格式張らないものの、フォーマルな場で着用される着物です。友人や同僚の結婚式への列席、子供の入学式・卒業式、お茶会、パーティーなど、着用シーンが広いのが特徴です。紋を入れることで格を調整することもできます。
- 訪問着(ほうもんぎ):未婚・既婚を問わず着られる、準礼装の代表格です。最大の特徴は、縫い目をまたいで柄が続く「絵羽模様(えばもよう)」になっていること。肩から胸、裾へと流れるように模様が描かれており、非常に華やかで社交的な場にぴったりです。
- 付け下げ(つけさげ):訪問着を簡略化したもので、柄が絵羽模様になっておらず、それぞれのパーツで上向きになるように配置されています。訪問着よりは控えめな印象ですが、品があり、少し改まったお出かけから軽いパーティーまで幅広く対応できます。
- 色無地(いろむじ):黒以外の色で一色に染められた、柄のない着物です。紋の数によって格が変わり、一つ紋を入れると準礼装として、お茶会や子供の七五三、入学・卒業式などで活躍します。紋を入れなければ街着としても着られる、非常に便利な一枚です。
街着・普段着(おしゃれ着)
こちらは、個性を楽しむためのカジュアルな着物です。観劇やショッピング、友人との食事会、お稽古事など、普段のお出かけにぴったり。ルールに縛られず、自由なコーディネートを楽しめるのが魅力です。
- 小紋(こもん):着物全体に同じ模様が繰り返し染められているのが特徴です。柄の大きさや種類が非常に豊富で、クラシックな和柄からモダンなデザインまで様々。まさに「おしゃれ着」の代表と言えるでしょう。
- 紬(つむぎ):もともとは、蚕の繭から直接糸にできない部分を集めて手で紡ぎ、織り上げた普段着でした。そのため、染めの着物である小紋などよりは格が下とされ、フォーマルな場には向きません。しかし、その素朴な風合いや丈夫さから、今では非常におしゃれで贅沢な街着として人気があります。
- 御召(おめし):徳川家斉が好んでお召しになったことから、この名がついたとされる高級な先染めの織物です。紬と同じ織りの着物ですが、御召は光沢としなやかさがあり、紬よりも格上とされています。紋を入れれば準礼装としても通用する場合があります。
男性の着物:こちらも格が大切
男性の着物も、女性と同様に格があります。女性ほど種類は多くありませんが、TPOに合わせてきちんと着分けることが大切です。
第一礼装(最も格が高い着物)
黒紋付羽織袴(くろもんつきはおりはかま)が、男性の最も格の高い第一礼装です。黒い着物と羽織に、染め抜き日向紋を五つ入れ、仙台平(せんだいひら)などの縞の袴を合わせます。結婚式の新郎や父親、格式の高い式典などで着用されます。
準礼装・略礼装
黒以外の色の紋付羽織袴がこれにあたります。色紋付とも呼ばれます。一つ紋や三つ紋を入れ、無地の袴やお召の袴などを合わせます。友人や同僚の結婚式への列席や、パーティーなどで着用します。また、着物と羽織の組み合わせ(アンサンブル)に一つ紋を入れたものも略礼装として通用します。
街着・普段着
普段のお出かけや家でくつろぐ際に着る、カジュアルな着物です。お召や紬が代表的で、ウールや木綿の着物もこの分類に入ります。羽織を合わせることで、ちょっとしたお出かけ着になります。袴を合わせない「着流し」というスタイルが一般的です。
季節に合わせた着物の選び方
着物には、季節に合わせて生地や仕立て方を変える「衣替え」の習慣があります。これは、日本の美しい四季を繊細に感じ取り、快適に過ごすための知恵です。大きく分けて「袷」「単衣」「薄物」の3種類があります。
袷(あわせ)の着物(10月~5月)
裏地(胴裏や八掛)が付いている着物のことです。一年で最も長く、秋から冬、春にかけて着用します。私たちが一般的に「着物」と聞いてイメージするのは、この袷の着物が多いでしょう。成人式の振袖や、結婚式で着る留袖なども袷で仕立てられています。
単衣(ひとえ)の着物(6月、9月)
裏地が付いていない着物のことです。袷では汗ばむけれど、薄物ではまだ早い、という季節の変わり目に着用します。具体的には、初夏の6月と初秋の9月が単衣のシーズンとされています。見た目は袷とほとんど変わりませんが、軽やかで涼しく感じられます。
薄物(うすもの)の着物(7月~8月)
盛夏に着る、透け感のある生地で仕立てられた着物です。代表的な生地に「絽(ろ)」や「紗(しゃ)」があります。見た目にも涼やかで、実際に風通しが良いため、日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすことができます。夏のお茶会やパーティーなどで着用されます。
着付けに必要な小物たち、全部見せます!
さあ、着物の種類がわかったところで、次はいよいよ着付けです。でもその前に、着物を美しく着るためには、着物と帯以外にもたくさんの「和装小物」が必要になります。まるで秘密道具みたいで、なんだかワクワクしますよね。ここでは、着付けに最低限必要な小物を役割ごとにご紹介します。「こんなに必要なの!?」と驚くかもしれませんが、それぞれが美しい着姿を作るために欠かせない大切な役割を担っています。一つずつ見ていきましょう。
肌着・補正用品
これらは、着物の下に着る、いわばインナーです。汗や皮脂から高価な長襦袢や着物を守る役割と、着崩れを防ぎ、美しいシルエットを作る役割があります。
- 肌襦袢(はだじゅばん)・裾除け(すそよけ):直接肌に触れる下着です。肌襦袢が上半身、裾除けが下半身用で、ワンピース型のものもあります。汗を吸い取り、着物への汚れを防ぎます。
- 長襦袢(ながじゅばん):肌襦袢の上、着物の直下に着るものです。着物の袖口や振りからチラリと見える部分なので、コーディネートの一部にもなります。また、着物が体に直接まとわりつくのを防ぎ、着崩れを防ぐ重要な役割も担っています。
- 衿芯(えりしん):長襦袢の衿に入れて、衿元をパリッと美しく見せるための芯です。これがあるのとないのとでは、顔周りの印象が全く違ってきます。
- 補正用パッド・タオル:着物は、洋服のように体のラインを出すのではなく、寸胴な体型の方が美しく着こなせるとされています。そのため、ウエストのくびれや胸のふくらみなどをタオルや専用のパッドで埋めて、体の凹凸をなくす「補正」を行います。少し窮屈に感じるかもしれませんが、補正をしっかり行うことで、着崩れしにくくなるという大きなメリットがあります。
着付けに使う紐類
着物は、ボタンやファスナーではなく、たくさんの紐を使って体を固定していきます。それぞれの紐の役割を理解すると、着付けの手順も覚えやすくなりますよ。
- 腰紐(こしひも):着付けの様々な場面で使う、基本の紐です。長襦袢を着るとき、着物のおはしょりを作るとき、帯の仮留めをするときなど、何本か必要になります。素材は、滑りにくく締めやすいモスリン(毛)が一般的です。
- 伊達締め(だてじめ):長襦袢や着物の衿合わせが崩れないように、胸元に締める幅の広い締め具です。腰紐で留めた上からこれを締めることで、面で押さえることができ、着姿が安定します。
- コーリンベルト:ゴム製のベルトで、両端にクリップが付いています。着物の衿元(上前と下前)をクリップで留めて使うことで、動いても衿合わせがはだけてくるのを防いでくれます。初心者さんには特に心強いアイテムです。
帯周りの小物
帯を美しく、立体的に結ぶために必要な小物たちです。これらを使うことで、後ろ姿もばっちり決まります。
- 帯枕(おびまくら):袋帯や名古屋帯でお太鼓結びなどをする際に、お太鼓の山をふっくらと形作るための土台となる小物です。ガーゼで包まれており、そのガーゼを結んで体に固定します。
- 帯板(おびいた):帯の前面、一巻き目と二巻き目の間に入れる板状の小物です。これをいれることで、帯の前面にシワが寄るのを防ぎ、すっきりと美しい見た目を保つことができます。
- 帯締め(おびじめ):帯の中央に結ぶ飾り紐です。帯を固定するという実用的な役割と、着物全体のコーディネートのアクセントになるという装飾的な役割を兼ね備えています。色や太さ、組み方など種類が豊富で、選ぶのが楽しい小物の一つです。
- 帯揚げ(おびあげ):帯枕を包んで隠し、帯の上辺を飾る布です。帯枕の紐を隠し、帯の上からちらりとのぞかせることで、胸元に彩りを添えます。こちらもコーディネートの重要なポイントになります。
足元とお履物
最後に、足元の身だしなみです。意外と見られている部分なので、最後まで気を抜けません。
- 足袋(たび):着物用の靴下です。親指と他の指が分かれているのが特徴。こはぜと呼ばれる金具で留めるタイプが正式です。シワなく、自分の足にぴったりのサイズを履くのが美しく見せるコツです。
- 草履(ぞうり):着物全般に合わせる履物です。台の高さや鼻緒の素材などによって格が変わります。フォーマルな場では、かかとが少し高めのものを、普段着には低いものを選ぶのが一般的です。
初めての着物、どうやって手に入れる?
「よし、着物を着てみよう!」と決心したものの、いざ手に入れるとなると、どこでどうすれば良いのか迷ってしまいますよね。着物を手に入れる方法は、一つではありません。ご自身のライフスタイルや着物を着る目的、予算に合わせて、最適な方法を選びましょう。ここでは、主な3つの方法をご紹介します。
購入する
「自分の着物を持つ」というのは、やはり特別な喜びがあります。愛着も湧き、着物を着る機会を増やそうというモチベーションにも繋がるかもしれません。購入する方法もいくつかあります。
呉服店や百貨店で購入する最大のメリットは、専門知識豊富な店員さんに相談しながら、生地を実際に見て、触って、顔映りを確認しながら選べることです。自分のサイズに合わせて仕立ててもらう「お誂え(おあつらえ)」ができるのも魅力です。ただし、一般的に価格は高めになる傾向があります。
リサイクル着物店やアンティーク着物店は、手頃な価格で個性的な一枚を見つけたい方におすすめです。すでに仕立て上がっているものがほとんどなので、自分のサイズに合うものを探す「宝探し」のような楽しみがあります。一点もののデザインも多く、人とは違うおしゃれを楽しみたい方にぴったりです。
インターネット通販は、家にいながら多くの商品を比較検討できる手軽さが魅力です。リサイクル品から新品まで、幅広い価格帯の商品が見つかります。ただし、実物を見られないため、色や質感がイメージと違ったり、サイズが合わなかったりするリスクも考慮する必要があります。購入の際は、寸法などをしっかり確認しましょう。
レンタルする
「成人式や友人の結婚式など、特定の機会に一度だけ着たい」「まずは気軽に試してみたい」「保管場所がない」という方には、レンタルが非常に便利でおすすめです。
レンタルの最大のメリットは、着物から帯、草履、バッグ、そして着付けに必要な小物が一式セットになっていることが多い点です。自分で一つひとつ揃える手間が省け、何が必要か分からなくても安心です。また、着用後のお手入れやクリーニングも不要な場合がほとんどで、そのまま返却するだけという手軽さも魅力。購入するよりも費用を抑えられることが多く、トレンドのデザインや、自分ではなかなか手が出せないような高級な着物を着られるチャンスもあります。
着付けやヘアセットもセットになったプランを用意しているお店も多いので、当日は手ぶらでお店に行くだけ、ということも可能です。着物デビューには、まさにうってつけの方法と言えるでしょう。
親や親戚から譲り受ける
お母様やお祖母様が大切にしていた着物を譲り受ける、というのも素敵な選択肢の一つです。最近では、お母様の振袖を「ママ振袖(ママ振)」として成人式で着る方も増えています。家族の思いが詰まった着物に袖を通すのは、感慨深いものがありますよね。
ただし、譲り受ける際にはいくつか確認したいポイントがあります。まずは着物の状態です。長年たんすにしまわれていた着物は、シミや黄ばみ、カビ、虫食いなどが発生している可能性があります。専門のクリーニング店で「丸洗い」や「シミ抜き」が必要になるかもしれません。
次にサイズです。お母様やお祖母様とご自身の身長や体型が違う場合、そのままでは美しく着られないことがあります。裄(ゆき)の長さや身丈が合っているかを確認し、必要であれば仕立て直し(お直し)を検討しましょう。着物の状態やサイズについては、呉服店や和裁士さんなど、専門家に見てもらうのが一番確実です。費用はかかりますが、大切な着物を蘇らせ、自分にぴったりの一枚として受け継ぐことができます。
着物を着たら考えたい、お手入れと保管方法
着物はとてもデリケートな衣服です。特に正絹(シルク)の着物は、湿気や紫外線、虫に弱いため、正しいお手入れと保管が欠かせません。少し手間はかかりますが、きちんとケアをすれば、何世代にもわたって美しく着続けることができます。大切な着物を長く愛用するための、お手入れと保管の基本をご紹介します。
着物を脱いだ後のお手入れ
楽しい一日を過ごした後は、着物をすぐにたんすにしまわず、ひと手間かけてあげましょう。このひと手間が、着物の寿命を大きく左右します。
- 陰干しで湿気を飛ばす:まずは、着物専用のハンガー(衣紋掛け)に着物、長襦袢、帯をそれぞれかけて、直射日光の当たらない、風通しの良い部屋で半日から一日ほど陰干しします。体から出た汗や湿気をここでしっかりと飛ばしましょう。
- 汚れをチェックする:着物が乾いたら、シミや汚れがないか全体をくまなくチェックします。特に汚れやすいのは、直接肌に触れる衿(えり)、手で触れることの多い袖口(そでぐち)、そして地面に近くて泥はねなどが付きやすい裾(すそ)です。ファンデーションの汚れや、食べこぼしのシミなどがないか、明るい場所でよく確認してください。
- ホコリを払う:最後に、柔らかいブラシ(着物専用ブラシがおすすめです)を使って、着物の表面のホコリを優しく払います。生地の目に沿って、上から下へ、そっと払うのがコツです。
汚れの種類と対処法
もし陰干しの際に汚れを見つけてしまったら、どうすれば良いのでしょうか。基本的には、自分で無理に処置しようとせず、早めに専門家(呉服店や着物専門のクリーニング店)に相談するのが一番です。しかし、ごく軽い汚れであれば、応急処置ができる場合もあります。
ファンデーションなどの油性の汚れが衿に付いてしまった場合は、ベンジンを染み込ませた柔らかい布で、汚れた部分を軽くたたくようにして移し取ります。このとき、強くこすると生地を傷めたり、汚れが広がったりする可能性があるので注意が必要です。
食べこぼしなどの水性のシミの場合は、乾いた布やティッシュで水分を吸い取った後、水を固く絞った布でシミの輪郭をぼかすように、軽くたたきます。いずれの場合も、あくまで応急処置であり、後からシミが浮き出てくることもあります。自信がない場合は、何もせずにプロに任せるのが賢明です。
クリーニングについて
着物全体の汚れや汗が気になるときは、専門のクリーニングに出しましょう。着物専門のクリーニングは「丸洗い(まるあらい)」と呼ばれます。これは、着物を解かずにそのままの形で、専用の溶剤を使って洗う方法です。全体の皮脂汚れやホコリを落とすのに適しています。ただし、丸洗いだけでは古いシミや特殊な汚れは落ちない場合があるので、その際は別途「シミ抜き」を依頼する必要があります。
クリーニングに出す頻度は、着用状況にもよりますが、シーズン終わりに一度出すのが目安です。特に、夏に着た単衣や薄物は汗を多く吸っているので、しまう前にはクリーニングに出すことをおすすめします。
正しい保管方法で着物を守る
お手入れが終わったら、いよいよ保管です。着物にとって大敵なのは「湿気」「カビ」「虫」「シワ」です。これらから着物を守るためのポイントを解説します。
たとう紙(文庫)に入れて保管
着物は、本畳み(ほんだたみ)という決まった畳み方で丁寧に畳み、「たとう紙(文庫)」と呼ばれる、和紙でできた専用の包み紙に入れて保管します。たとう紙は、通気性が良く、湿気やホコリから着物を守ってくれる優れものです。長年使って茶色く変色したたとう紙は、湿気を吸ってしまっている証拠なので、新しいものに交換しましょう。
保管場所のポイント
着物の保管に最も理想的なのは、桐たんすです。桐は、湿気が多いときには水分を吸い、乾燥しているときには水分を吐き出すという性質があり、たんすの中の湿度を一定に保ってくれます。また、防虫効果のある成分も含まれていると言われています。
桐たんすがない場合は、プラスチック製の衣装ケースでも代用できます。その際は、湿気がこもらないように、すのこを敷くなどの工夫をすると良いでしょう。保管場所は、湿気が少なく、風通しの良い、直射日光の当たらない場所を選びましょう。クローゼットの上段などが比較的適しています。
年に一度は虫干しを
どんなに気をつけて保管していても、長期間しまいっぱなしにしておくと、湿気がこもってカビや虫食いの原因になります。そこで行いたいのが「虫干し」です。年に1~2回、着物をたんすから出し、陰干しをして空気に当てることで、湿気を飛ばし、カビや虫の発生を防ぎます。
虫干しに最適な時期は、空気が乾燥している、7月下旬~8月上旬の梅雨明け後(土用干し)、9月下旬~10月上旬の秋晴れの日、そして1月下旬~2月上旬の寒さが厳しい時期(寒干し)です。晴天が2~3日続いた、乾燥した日に行うのが効果的です。
着物をもっと楽しむための豆知識
着物の基本が分かってきたら、次はもう一歩踏み込んで、より深く着物を楽しむための豆知識をご紹介します。美しい所作や、柄や家紋に込められた意味を知ることで、あなたの着物姿はさらに輝きを増すはずです。周りの人から「お、素敵だな」と思われるような、粋な知識を身につけましょう。
着物での美しい所作
せっかく素敵な着物を着ていても、動きがガサツだと魅力も半減してしまいます。着物姿をより美しく見せるのは、優雅でたおやかな「所作(しょさ)」です。普段の動きを少し意識するだけで、着崩れを防ぎ、ぐっとエレガントな印象になります。
- 歩き方:歩幅は小さく、内股気味にすり足で歩くのが基本です。背筋をすっと伸ばし、つま先からそっと踏み出すように意識すると、裾が乱れず美しく歩けます。
- 座り方:椅子に座るときは、帯の結びを潰さないように、浅めに腰掛けます。背もたれには寄りかからず、背筋を伸ばした姿勢をキープしましょう。袖が床につかないように、両袖を膝の上に重ねておくと上品です。
- 階段の上り下り:裾を踏んだり、汚したりしないように、少し工夫が必要です。上前(うわまえ)の裾を右手で軽く持ち上げ、少し体を開き気味にして、つま先でゆっくりと上り下りします。
- 物の拾い方:物を落としたときは、膝を折って腰を落とします。まず、右袖を左手で、左袖を右手で軽く押さえます。そして、体を少し斜めにしながら、片膝をつくようにしてしゃがむと、衿元や裾が乱れず、スムーズに拾うことができます。
家紋について知ろう
黒留袖や黒紋付など、格式の高い着物に入っているのが「家紋(かもん)」です。家紋とは、その家の系譜や家柄を表すために用いられてきた印のこと。自分の家のルーツを示す、大切なシンボルです。
着物に入れる紋には、紋の数によって格が変わります。最も格式が高いのが、背中、両胸、両外袖の5か所に紋を入れる「五つ紋」。次に、背中と両外袖の3か所に入れる「三つ紋」。そして、背中に1か所だけ入れる「一つ紋」と続きます。紋の数が多いほど、着物の格も高くなります。例えば、色無地は紋を入れなければ街着ですが、一つ紋を入れれば準礼装として着ることができます。
自分の家の家紋を知っておくと、いざという時に役立ちます。もし分からなければ、お墓や仏壇を確認したり、親戚に尋ねてみたりすると良いでしょう。
帯の種類と結び方
着物のコーディネートの主役とも言えるのが「帯」です。帯にも様々な種類があり、合わせる着物やTPOによって使い分けます。
- 袋帯(ふくろおび):表と裏が袋状に織られている、最も格式の高い帯です。金糸や銀糸が使われた豪華なものが多く、留袖や振袖、訪問着などの礼装・準礼装に合わせます。結び方は、二重にお太鼓を作る「二重太鼓結び」が基本です。
- 名古屋帯(なごや帯):袋帯を簡略化したもので、お太鼓になる部分以外は半分の幅に仕立てられています。締めやすく、普段使いしやすいのが特徴。小紋や紬などの街着から、付け下げや色無地など、比較的気軽な準礼装まで幅広く使えます。結び方は「一重太鼓結び」が一般的です。
- 半幅帯(はんはばおび):その名の通り、袋帯や名古屋帯の半分の幅の帯です。浴衣に合わせる帯としておなじみですが、紬や小紋などの普段着の着物にも合わせることができます。結び方も「文庫結び」や「貝の口」など、多様で創作的な結び方が楽しめ、気軽な着物ライフにぴったりの帯です。
和装のヘアスタイルと髪飾り
着物を着るときのヘアスタイルは、うなじをすっきりと見せるアップスタイルが基本です。うなじは、着物姿の女性の色っぽさを引き立てる重要なポイント。髪が肩につく長さがあれば、まとめ髪にするのがおすすめです。
ショートヘアの方も、サイドの髪を耳にかけたり、ヘアアクセサリーを使ったりして、顔周りをすっきりと見せる工夫をすると、バランスが良くなります。髪飾りには、かんざしや櫛(くし)、笄(こうがい)など、日本の伝統的な美しいものがたくさんあります。着物の色や柄、季節感に合わせて髪飾りを選ぶのも、着物のおしゃれの醍醐味の一つです。控えめな小ぶりのものから、振袖に合わせるような華やかなつまみ細工のものまで様々。TPOに合わせて、品良くまとめましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?着物の歴史や種類、着付けに必要な小物、お手入れ方法から、より楽しむための豆知識まで、盛りだくさんでお届けしました。もしかしたら、「やっぱり覚えることが多くて大変そう…」と感じた方もいるかもしれません。でも、大丈夫です!最初からすべてを完璧にこなす必要はありません。
まずは、この記事をきっかけに着物に興味を持つこと、そして「着てみたい」という気持ちを大切にすることが、何よりも素晴らしい第一歩です。最初はレンタルで気軽に試してみるのも良いですし、お家のたんすに眠っている着物を 꺼내て眺めてみるだけでも良いでしょう。
着物の世界は、知れば知るほど、その合理性や美意識、そして日本の四季を愛でる心に触れることができ、あなたの日常を豊かに彩ってくれるはずです。難しく考えすぎず、まずはあなたなりのお付き合いの仕方で、着物の世界に触れてみてください。この記事が、あなたの素敵な着物ライフの始まりを、少しでもお手伝いできたなら、これほど嬉しいことはありません。

